梨華 エスクラリネット
梨華(りか)
梨華は、Esクラリネットを担当している。
性格は一見おとなしいが、気がつくと人の輪の中心にいる。人から見られていることが好きなタイプである。一人でいるよりみんなでいる方が好きである。ただ、八方美人では無く、好き嫌いははっきりしている。かといって、争うことはせず、気に入らないことは流すようである。小柄な体型は、そのままで、とうとう背が伸びてくることは無かった。本人の性格的にはコンプレックスであり、もっと目立って中心にいたいという想いは体には影響しなかったようだ。
エスクラを担当することとなり、クラリネットの大勢の中から一つ抜き出て、また、演奏の時の座席の位置は、指揮者の右側の最前列。管弦楽で言うところの「コンサートマスター」の位置である。この位置での演奏は気持ちが良いと想っている。ただ、指揮者(顧問の三田)の耳元での演奏なので、少しでも連れると、「そんなエスクラ、要らない!」と怒鳴られるのである。しかし、それも梨華にとっては心地よい響きである。自分の音をちゃんと聞いてもらえているという顧問に対しての信頼感を増す事になる。
元々は、B♭クラリネットだったが、3年生が引退後、Esクラリネットへ転向した。普通のクラリネットは基音がB♭(べー)であり、実音は「シ♭」である。B♭で「ドレミファソラシド」を吹くと、出てくる音は、「シ♭ドレミ♭ファソレシ♭」ときこえる。同様にEsクラリネットで「ドレミファソラシド」を吹くと、「ミ♭ファソラ♭シ♭ドレミ♭」と聞こえる。合奏で「ド」の音を出すと言うことは、それぞれの楽器の「ド」を出すと、バラバラになってしますので、実音の場合の「ド」を「Cツェー」と呼ぶように区別している。つまり、「みんなで「ツェー」の音を出して」といわれると、B♭クラでは、「レ」の音を、Esクラでは、「ファ」の音を出せば良いのである。これは楽譜の段階でそのように書かれているので、B♭クラとEsクラと指使い「運指表」は同じなので、Esクラの場合は、楽譜の「ファ」の音を指で押せば、出て来る音は「ツェー」となるのである。ここが最初よく分からなくなるのである。譜面通りに指を使えばそのままのであるが、出て来る音が違うので戸惑ってしまった。感覚の問題で苦労したが、慣れてくればクラリネットの延長線上にあり、音が高くメロディーラインが多く、ソロパートも多い。素早いフィンガリングが多くなるが、吹いていて気持ちが良い。その他大勢から抜け出せた喜びを実感しているのであった。
美奈(オーボエ)とは、木管高音セッションとしてよく一緒に練習をした。お互い「人と違う」ということが性格に合うのであろう。気の合う仲であった。
※ この物語は、とある、地方中学校を舞台に繰り広げる、無謀かつ純粋な挑戦の記録です。
※ ストーリー全体はフィクションでありますが、一つ一つのエピソードは実話を基に、アレンジをして書かれています。
※ 登場する実在の学校、団体、個人等と、全く関係・関連はありません。
※ この作品「めざせ!東海大会♪~ある吹奏楽部の挑戦~」は、著作物であり、版権は著者に依存します。無断転載、転用はお断りします。
※ 原作者(著者):ホルン太郎 なお、この作品は、取材で集めた実話をヒントに新たに書きおろしたフィクションです。
※ この作品は、一般市民団体「まちなか演奏会実行委員会」によって公開されています。