top of page

第04話

ふれ合いフェスタ演奏会

めざせ!大集合14人衆900-min.png

 かつて黄金期とまで言われた、地方中学校。担任が変わったこともあり、A編成すら維持すら心配されるようになってしまった。「これではだめだ!私が3年で東海大会に連れていく!」新たな吹部顧問を迎えて、新生山田中学校は、東海大会に向けて、新たな挑戦を始めるのであった.....。

めざせ!東海大会♪ シーズン2

 山田中学校は、毎年10月に、福祉活動の一環として、山田学区ふれあいフェスタを、山田学区福祉センターと共催して開催している。学区内のお年寄りと共に楽しもうという企画であり、毎年、そのオープニングとして、山田生涯学習センターホールにて、吹奏楽部の演奏会を開いている。また、山田中学校PTAも協業して隣の山田中学校で「ふれあいバザー」を開催している。バザーはそれなりに人気のイベントで、いつも開場前は長蛇の列となる。
 この日は校庭を開放して各部活も練習風景を自由見学できるようにして、というより、通常練習というより見せる練習をして盛り上げている。吹奏楽部も、生涯学習センターでの演奏会とは別に、校庭にて屋外演奏会を実施している。
 今年はさらに、中文連、静岡県中学校文化連盟総合文化祭なる催しものに出演することとなっていた。それも、山田中学だけでなく清水飯山中学校という、B編成であるが東海大会出場常連の強豪校と合同で、100名近い大合奏団を結成し出場するという、新しい試みを行う事となっていた。
 これも、顧問の三田の発案で、自分たちだけの世界ではなく、他の学校と合奏することで、自分達のレベルが明かとなり、また練習に励みが増し、さらに、チームワークが取れていくであろうという希望を持っての活動である。

 さて、1日2ステージとはよくあるが、合同練習を含めて3ステージをこなす。今までにないハードスケジュールであった。
 演奏する曲も、ふれあいコンサートとバザー演奏会とは同じ5曲であるが、飯山中との合奏は、通常演奏で1曲、そして今回はなんと、フィナーレの全体合唱の伴奏として、もう1曲を演奏することになる。さらに、昨年は用意していなかったアンコール曲も一応用意した。都合8曲を、山田学区運動会以降ソロコンと並行して練習することとなる。「アルセナール」「小さな恋の歌」「ジョイフル」は、運動会で演奏したものの、運動会の他の2曲、ソロコンも途中で曲替えしての2曲。12曲を9月の新体制以降一気に練習していることとなる。

 そして、このコンサートは、運動会から1カ月経たコンサートで、この1カ月の成長を見るのに最適なコンサートであるともいえる。とは言うものの、外から見れば順調に練習しているように見えるものの、中身はまだ、ぐしゃぐしゃの状態である。
 初めて自分たちでリードしていかなくてはならない新2年生と、今まであんまり意識をしていなかった1年生とぶつかり合う、まさに真っ最中である。このころになると、1年生も音出しはほぼできるようになり、メロディーもそこそこ吹けるようになってくる。ちょうど1年前の美奈たちがそうであった。吹けるようになってくれば、かっこよく決めてみたいとか、自分がソロをやりたいとか。そんな欲も見えてくる。

 今年は、ソロコンもあった。それゆえ、良い意味でも悪い意味でも、自信が付いてきている。それは逆に言えば、まとまりが悪くなってきているともいえる。運動会の時は、自信がなくて、蚊の鳴くような音しか出せなかった金管も、一番後ろの演奏場所から前に突き出す音を出せるようになってきてる。まとまらない木管も、いつの間にかそろうようになってきている。着実に、顧問の三田が描いた、自信を付けて前に出る音を出せるようになっている感があった。おそらく今必要なのは、確実にみんなをまとめられるリーダーであろう。
 新部長の花愛は、まだ、みんなをまとめ上げられずに苦しんでいた。運動会演奏会のときは、誰にも手伝ってもらえず、一人走り回っていた。動かない2年生、こちらを向かない1年生。「何やってる!」って、声に出したい。でも、出せなかった。

 部長の花愛も、美奈達も、今の3年の先輩のように優しく指導したかった。先輩達は、自分達をいつも見守っていて手を差し伸べてくれた。だから、大好きな先輩たちとがんばる気になれた。しかし、それに相応する、指導技術も、演奏技術もまだあまりないこともあり、その熱い思いは1年生に伝わっていない。美奈は、ちょっと強い口調で注意したことがある。すると、1年生は泣き出してしまった。一旦、泣かれると情勢は逆転する。なんで泣かした、と、美奈が攻められることとなった。このことで、美奈は、もう注意することができなくなってしまった。
 部長の花愛も、同様であった。でも、部長になりたくてなった以上、泣き言は言えない。まずは自分が動くしかないと思った。とにかく、人一倍、自分が動く。動いている姿を見せる。そして、声をかける。聞いてもらえなくても、声をかける。遠慮はしない。声をかける。

 運動会の演奏の時の、準備が全く出来なかったことを反省し、今度は事前に、誰がどの楽器を運ぶか具体的に決めることとした。ティンパニーのような大型楽器は3人、もしくは4人で持つ事とした。小型の手持ち楽器グループは、自分の楽器は後回しで、まず、大型楽器の手伝いをする。大型楽器だけではない。椅子も、譜面台も、誰が誰の分も一緒に運び、どこに並べるかをあらかじめ決めることとした。今までは、クラリネットのような手持ち楽器の子達は、自分の楽器と自分の譜面台だけを持って移動していた。これでは大型楽器の人の分の移動が出来ない。かといって、全部一緒に持っていくと、誰の楽器か分からなくなる。そのため誰の楽器を持っているか、ちゃんと決めることで、時間的ロスをなくそうと思った。今回は2ステージやることとなった。1ステージは隣の山田生涯学習センターホールで行い、その後は大里中の体育館となる。実際に楽器を持ったつもりで、何人かで導線を歩いてみた。時間を計り、どのくらい時間がかかるかを確認した。これによって、一人一人の動きが具体的に決まっていく。例えば、まずティンパニーを、誰それさんと4人で運び、すぐに戻って誰それさんの譜面台をもって並べる。そして戻って誰それさんと自分の楽器を持って運ぶ。というように、一人一人のタイムスケジュールを決めたのである。
 そして、事前にティンパニーの運ぶときの注意とか、マリンバの分解方法などをレクチャーして練習した。

 演奏会5日前でも、まともな合奏ができていない。そもそもパート練もできていない。あーでもない、こーでもない、できない理由を並べて、できていない。1年生は、無駄話に夢中である。美奈は「ごめんね、ちょっといいかな」と、無駄話をさえぎる。「えっ、あっ、大丈夫でーす」と答えが返ってくる。大丈夫って何?パートリーダーがなんで謝るの?美奈は心の中で怒っていた。でも泣かれるのが嫌だった。
 3年生がいまさらながら、素晴らしかったと思えた。同じようにやっているつもりで、できない。誰もついてこない。1年生はまだしも、2年生までもが、離れていくように感じた。美奈は、部長の花愛をたて、常にサポートすると心に決めていた。まずコアとなる部分が揺らがないこと。金管までは目が回らない。自分のフルート、オーボエパートと、花愛のサックス、そして木低(木管低音パート)だけでも、まずそろえよう。クラリネットは、手が回らない。

 一方、優子はトロンボーンと、トランペットを絞めにかかった。優子の性格から、回りくどいことはかえって苦手である。また先輩の事もよくわからない。自分のやり方をやるしかなかった。「音を飛ばせ!遠くのものを見て、そこに届くように音を飛ばせ!もっと!もっと!もっと!」「音を外したって構わない。とにかく音を前へ!間違ったって構わない。とにかく音を前へ出せ!」常にこう叫び続けた。
 優子は、北海道時代、遠い願望岩に向かって音を出していた。それをイメージして、音を遠くへ飛ばせ!というのだが、そこそこ住宅が建ち並ぶ静岡の街である。みんなになかなかイメージが伝わらない。姿勢をまず指導した。座る場合は椅子に浅く座り、背筋を伸ばすこと。立つ場合は、背筋を伸ばし顎を引く。そして、音を指揮者とその向こうにいるであろうお客さん、さらにその先の壁、そこに向けて音を当てる。まっすぐ、音を出す。力強く吹くと、音は平べったい音となるので、丸い音になるようにイメージする。どんな音が丸いのかではなく、頭の中で円を描いてみる。その円を延ばした円柱のような物を描いてみる。そして、その円柱をどーんと、まっすぐ遠くへ飛ばす。そんなイメージを持てと、しきりに口で説いた。このイメージ、口ではなかなか伝わらないのである。が、とにかく試行錯誤で音を出していくうちに、「あれっ、これ私の音?」という音が出ることがある。すかさず、「そう!その音!その音良いねぇ!そのイメージで!」と、瞬間を逃さない。そんな体験が何度か続くと、「円柱をまっすぐ飛ばす」イメージが音として理解できてくる。

               *    *    *

 演奏会当日。会場設営に来ると、保護者会の役員がすでに準備をしていた。まず挨拶「こんいちは」。声は小さいがとにかく挨拶をした。会場に椅子を並べるとなり、がむしゃらに椅子を出して並べてみた。顧問の三田がさすがに切れた。「これじゃ、どこから入ってくるんだ?通れないじゃないか!」たしかに、ずらっと並べれば、椅子への移動が出来ない。そこまで考えていなかった。この6月にもここでコンサートやっているのに、どう並べていたか、覚えていないのである。顧問が最初の1列をきれいに並べていく。そして、これに併せて、後ろを並べるようにと指示をした。
 楽器運びももたついた。でも、運動会からみればずいぶん動いているようだった。なるほど、頭で考えることと、実際の動きには大きな差があることを実感した。当初計った時間は当てにならなかった。この場合はこうしようといろいろ考えたこととは別の問題が、一杯出てきた。それでもなんとか指示をして演奏会をスタートすることが出来た。

 ふれあいフェス透明イラスト350-min

 最初の曲は、やはり「アルセナール」である。このメンバーでは運動会の演奏から2回目の演奏となる。ただ、アルセナールも進化していた。テンポを上げて譜面通りのテンポで演奏した。今回は室内演奏なので、前回と違い音が反響してなんとなくよく聞こえるようである。ただ、早い3連符はみんなが出揃ろわない。ペット、ホルン、ボーンと音がモヤモヤしてメリハリがない。とはいえ、前回の「ヤルセナール」ではなかった。「ヤットアルデアール」というところであろう。テンポは遅めで指揮が振られた。軽快なリズムだと演奏が追いつかないようだ。6月の前のメンバーでの「アルセナール」が、前のメンバーでの最高の演奏であった。そしてこ、この「アルセナール」は、屋外であった前回を除いて、新しいメンバーの「アルセナール」である。2年生は変わらずで、3年が1年に変わっただけであるが、メンバーの半分である事から、この差は歴然とでいてた。しかし、運動会から1ヶ月。音は出てきた。杏をはじめとするペットのトリルがモヤモヤする意外、まぁ「曲」として聴ける状態である。

 2曲目は、「小さな恋の歌」。これも運動会で演奏した曲である。あれだけバラバラであった曲も、しっとりしてきた。ピッコロは今日子が担当し、梨華のEsクラ、美奈のオーボエと木管高音域が安定している。ここが安定するときれいな旋律として聞こえてくる。曲の中盤、美奈が立ち上がりステージ中央へ。オーボエのソロを演奏した。美奈はソロ2回目である。前回はいきなりの指名であったが、今回は、ソロコンを勝ち抜いてのソロである。音はミスもなく演奏できた。まだこの曲のイメージのように優しい旋律とまでは行かないが、上手くまとめることが出来た。1ヶ月の成果である。終盤のフルートパートソロ。なるほど、全員が背筋を伸ばすようになっている。中央はやはり、彩である。背筋を伸ばし、まっすぐ前を見て可憐にフルートを回す仕草は、そう、3年の先輩をイメージしてのものだろうか。まだ固くぎこちないが、そう、この子は伸びて行くに違いない。音だけでなく自分自身を「前へ,前へ」出していく力のある子である。狭いホールの環境も影響しているが、会場全体が優しく包まれるようであった。

 3曲目は、キャリーぱみゅぱみゅの「ファッションモンスター」である。演奏パートの入れ替えがあり、彩がピッコロを担当。花愛も最前列に出てきて主旋律を吹くこととなる。指揮は2年ホルンの奈菜である。ピシッと左手をきかせなかなかの指揮でだった。演奏の方は、メインクラがちょっと出揃わない感があるが、アルトサックスがその補完をして崩れるようなことはならなかった。美奈のオーボエ、梨華のEsクラが高音域をリードしたが、彩のピッコロは今ひとつ音が定まっていないようである。それにしても、この4月からはじめたばかりの彩が、すでにピッコロにチャレンジしている。もちろん、フルート1stの今日子は、さらに上達していて、フルートをぐるぐる回している。感情を入れての強弱が出来ているのである。それには及ばないものの、同じくスタートした1年生とは一線を課していた。これで、2年生は3人ともピッコロが吹けることとなる。

 4曲目は「優しさであふれるように」は、JUJUの曲で、題名のごとく、優しさに包まれるしっとりした曲である。クラとサックスが中低音域で絶妙なハーモニーを奏でていく。指揮は、産休教員の補充の女性教諭で吹部副顧問である。1年の任期である教師予備軍であるが、大学まで吹奏楽部を経験していて、それなりに理解のある先生だ。先生にとって見れば何かと経験である。吹奏楽部時代に指揮を振った経験もあるようで、なかなかたいしたものである。さて演奏はテンポがゆっくりなので、メロディーに無理はなかった。あれ、フルート1st.の今日子と、オーボエの美奈がいない。なぜだろう。音が全体的に低いので、要らなかったのだろうか。曲も終盤にさしかかると、ステージ袖にフルート1st今日子が立ち、ソロを演奏しはじめる。そして、フルート2nd.がピッコロを持ってステージ中央で継いでソロ演奏。彩はフルート2nd.が立ち上がってステージ中央に移動するのをちらっと目で追っていた。ここ、やりたかったのであろう。
 フルート2nd.が礼をして着座すると、美奈も同じく着座した。顧問の三田の演出で、美奈は会場後ろでソロをバックアップして演奏し、ステージに戻るという事だった。が、誰も気がつかなかった。オーボエの音は小さいのだ。これは演出失敗である。

 さて、曲も最終となり、美奈がその場で立ち、ロングトーンのソロとなる。が、やってしまった。
 「ソ、ソーラソー、ミファソー、ソ、ソーラソー、ミド↓ー」のフレーズであるが、この「ミファソー」の三連符がでなかった。緊張もあるのかかすれてしまった。顔が真っ赤になったが、すぐに気持ちを立て直し、最後の下の「ド」のロングトーンは見事に最後まで音を出せ、全員の合奏となって締めくくった。
 実は、このソロでの失敗「やっちゃった」経験は、大切なことだと思う。誰もが、これだけはやりたくないと思うが故に、極度の緊張となり固くなって、「やっちゃう」のである。問題はこの状態をどうやって立て直すかである。次のフレーズの最後がロングトーンであり、ここが一番重要である。気を取り直して、ここをやってのけた。このことは重要な経験であったと思う。もう大丈夫であろう。本番は来年の夏コンである。

 5曲目は「ジョイフル」。これも運動会の時の曲で今回で2回目である。今回はパートごとのソロに演出をして、パートごとたっての演奏である。前回は、グランドでの演奏でそもそも全員がたっての演奏だったので、この演出は出来なかった。まずは先陣を切って杏のトランペットと奈菜のホルン。杏がリードしてなんとか乗り切った。しかし、トランペットとはもっと大きな音を出すものである。この狭いホールでもよく聞こえなかった。その後、サックスパート。ここももっとふくよかな音の厚みがあってしかるべきだろう。花愛が率いるも練習不足か自信なさそうである。ピッコロは2nd.奏者であったが、ピッコロ、オーボエ、フルート、Esクラが高音域をまとめていてきれいに聞こえる。音的には、フルートパートと梨華のEsクラの木管高音が安定していた。ラストは、最前列のクラが総立ち。次に2列目のフルート、サックスパート。そして、オーボエ、ホルン、木低が立ち、ラストはステージ上段のトランペットとボーンが立ち上がり、フィナーレ。フィナーレは楽器を天井に向けて放射状に広げての演奏。よくこの形で吹けるものである。まぁ、演奏している方も楽しそうであった。こういう演出は、最近高校吹部でも流行っていて、見ていて楽しい物である。クラッシックの管弦楽では出来ない演出である。

そして、アンコールは、星野源の「恋」....
 さすがにKPTは来なかったが、1年生が躍り出た。6月のコンサートシリーズではやらされ感満載だった1年生だが、このときは、楽しくてたまらないようだった。全員が楽しそうに、なかなか上手く手を動かして器用に踊っていたのが印象的であった。このダンスには、彩はもう入っていない。彩はすでに2年生として活動していたのである。

シーズン2ふれあいフェスタ350-min

 さて、午後は、わずかな休憩を挟んで、体育館での演奏となる。昨年も屋外演奏をやったが、玄関前での3曲程度の演奏であった。今回は先ほどと同じ演出で、場所が体育館に変わっただけである。本当は屋外演奏の予定であったが、雨が降り急遽体育館での演奏となった。場所がフェスタ会場より離れるので、保護者会役員が「是非聴いてください!」と叫びながら校庭を何度も回っていた。
 さて花愛達は、楽器搬送となる。今回は距離が長い。校舎内や渡り廊下と足下も悪く、注意しながらの移動であった。しかし、みんな自分の仕事が分かっているようで、無駄な動きがない。午前中のバタバタはもう無かった。予定通り楽器が搬入されたときには、嬉しいことに入り口に観客の列が出来ていた。

 1日に2度の演奏会というスタイルは、この6月の「コンサートシリーズ・夏」からチャレンジしている。より多くの経験を踏むことと、より多くのお客さんに聞いてもらうこと。そしてそれは、まだ体が出来ていない女子中学生にとって、かなりきついことでもある。体力的なこと腹筋や腕力など、ほほの筋肉や唇の動きなど、まさに体を鍛えることから始めないとならないことでもある。アニメ「響け!」でも、いきなりグラウンド1周走るとかのシーンがある。階段昇降をやったり、柔軟運動の腹筋やストレッチをやることもある。しかし中学ではそこまではやらない。大人への成長の初期の段階であるため、過度の体力作りは成長に悪影響を与える場合もある。そのあたりは慎重である。

 この2度目の演奏で、体を取り直した者もいた。美奈である。午前中の演奏で「優しさであふれるように」の最後のフィナーレのソロで、音が出なかったリベンジである。「ソ、ソーラソー、ミファソー」であるが、「ソ、ソーラソー、ミソー」と、「ファ」の音がかすれてしまった。3連符のフィンガリングが追いつかなかったようだ。しかし、バランスを崩さずそのまま低音のロングトーンと続き、オーボエの低音の響きが体育館に広がった。ミスは誰でもある。そのミスをいかに目立たなく、そして立ち直るかである。前回は完全に音を失った。でも、今回は繋げることで、整えることが出来た。1回1回、演奏のたびに成長していくのであった。

 予定された曲を演奏し、「ありがとうございました!」の挨拶の後、拍手に答えてアンコールの準備に入るとき、部長、花愛の挨拶があった。

 「本日は、雨の中私たちの演奏を聴きに来てくれて、ありがとうございました。
 この夏、新体制となり、私たちが掲げる目標は、私たちにとってとても高いものであります。
 これから先、ここにたどり着くまで、とても長い道のりになると思います。
 ですが、この仲間とお互いを高めあい、皆様に私たちのベストな演奏を届けられることが出来るよう、日々練習に励んでいきたいと思います。
 最後に、いつも私たちを支えてくださるたくさんの人たちに感謝いたします。」

 「高い目標」とは、もちろん、「東海大会出場」である。
 
 そして、アンコール曲、星野源の「恋」の演奏である。演奏は2年生。ダンスは体育館いっぱいに広がった1年生であった。

 本格的な活動がスタートした。

 めざせ!東海大会♪

※ この物語は、とある、地方中学校を舞台に繰り広げる、無謀かつ純粋な挑戦の記録です。
※ ストーリー全体はフィクションでありますが、一つ一つのエピソードは実話を基に、アレンジをして書かれています。
※ 登場する実在の学校、団体、個人等と、全く関係・関連はありません。
※ この作品「めざせ!東海大会♪~ある吹奏楽部の挑戦~」は、著作物であり、版権は著者に依存します。無断転載、転用はお断りします。
※ 原作者(著者):ホルン太郎 なお、この作品は、取材で集めた実話をヒントに新たに書きおろしたフィクションです。
※ この作品は、一般市民団体「まちなか演奏会実行委員会」によって公開されています。

bottom of page