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第05話

中文連文化祭合同演奏

めざせ!大集合14人衆900-min.png

 かつて黄金期とまで言われた、地方中学校。担任が変わったこともあり、A編成すら維持すら心配されるようになってしまった。「これではだめだ!私が3年で東海大会に連れていく!」新たな吹部顧問を迎えて、新生山田中学校は、東海大会に向けて、新たな挑戦を始めるのであった.....。

めざせ!東海大会♪ シーズン2

 顧問の三田が「私が3年で東海大会に連れて行く」と宣言して、このメンバーが3度目の挑戦となる。そして、このメンバーは全て三田が最初から指導したメンバーである。良いも悪いも、三田以外の指導を知らないメンバーである。ちなみに、引退した3年生は1年の時違う指導を受けていた。吹奏楽の基礎を学んだはずが、根底から覆され、三田の色に簡単に染まることはなかった。しかし、この2年生は、もう三田の曲の選曲の好みや、求める「音」、時間等のスケジューリングの癖が分かっている。
 三田は、やりたかったことで、今まで躊躇していたことが多くあった。その一つとして演奏会を毎月1回やること。何でもいい。地域の小さな街角演奏会も、大ホールでの演奏会も、とにかく毎月1回は定期的に入れ、それに向かって曲を仕上げていくという過程を、部員達に挑戦させたかった。事実、全国大会レベルの学校は、曲の通し合奏はなんと2週間前ということがざらである。それでもその時期に近所の小学校から依頼があれば、ミニ演奏会を別にこなしている。部員達が「そんなにやりきれない」という表情に、顧問が「無理と思ってるだろ?無理と思えば出きるはずがない。無理ではなく、やるのだ」と強く言っているドキュメントがテレビに流れたりする。
 楽譜は初見で吹けるどころか、同じ曲でも編曲が違ういくつかの楽譜に目を通しただけで雰囲気を読み、どちらが良いか判断する能力なども身につけたかった。そのためには、わざと追い込むのである。個々の音出しが出来ていれば、合奏練習など前日でも十分という考えである。実際、オーケストラなども、合わせのリハーサルは前日ということも多いと聞く。

 中文連。聞き慣れない言葉であるが、運動部で言うところの「中体連」と同じ、中学校の文化部の連合体である。その文化祭は県内で各地区持ち回りで実施しているが、ちょうど今年は静岡市が担当をしていた。もちろん、県吹練の幹部でもある三田はこのチャンスを逃すはずもなく、出場を決める。調べてみると、昔東海大会に行ったメンバーも、この中文連に出場していた。それを知ってか知らずか、調整をはじめることとなった。
 静岡市内トップの山田中と、次点の大岩中。その他、小編成のいくつかの優秀校も名乗りを上げ、山田中は清水の中編成(B偏)の清水飯山中学校と合同で出ることを決めた。そのために、前回のふれあいコンサートの終了後、合同練習を行っている。大岩中も他の3校と合同で別に合奏をするようである。この他校との合同合奏は、自分たち以外の練習風景や雰囲気を知ることが重要であり、大いに刺激をもらう良い機会である。しかしなかなかスケジュールが合わず、このような催し物でもないと難しいようだ。

中文連350-min

 演奏曲は、「アルセナール」、「優しさであふれるように」と、パイレーツ・オブ・カリビアンから「呪われた海賊たち」である。そして、最後表彰式の後、全員で合唱を行うようであるが、その伴奏も任されている。
 「アルセナール」は、山田中にとっては定番の曲であるが、飯山中にとっては初めての曲である。山田中も苦手なトランペットのトリルでの駆け上がりは双方とも上手くできず、スローテンポでの演奏となった。行進曲だとしたら歩くと言うより、つまずきそうな速度である。ただ、このテンポならば指も追いつくようで、この時期の演奏としては仕方が無かったであろう。トランペット9本、トロンボーン9本の計18本が最高段に整列しての配置で実に壮大であるが、出てきた音は、その3分の1に満たない音量である。ほぼ全てのベルが下を向いてボーンは譜面台の下を向いている。クラリネットパートが主音律の場合はともかく、ペット、ボーンのファンファーレぐらいは、全員のベルが前を向いて、聴衆からベルの黒い穴が見えるようにして吹くだけで、音がボリュームアップして迫力が出る。のに、それが出来ない。姿勢が悪いだけではなく、暗譜していないので譜面をみての演奏であるからだ。しかし、それは山田中の話で、合同演奏の相手の飯山中のトランペットとボーンは、こちらにベルが向いている。音は出ているが、練習不足か息量が足りない感じである。譜面をみていないことの不安であろうか。
 
 2曲目は、「優しさにあふれるように」である。これは、美奈がふれあいコンサートでソロを失敗した曲でもある。それもあるのか、この曲の2本のフルートと、オーボエのソロの部分は、オーボエをクラリネットに変えて飯山中となり、フィナーレのソロも飯山中のクラリネットとなった。
 美奈は正直つまらなかった。自分たちよりもレベルの低い人たちに教えたりすることが嫌ではない。むしろそれは大切だと理解している。とはいえ、直接自分にメリットはない。ましてや、実力を別にソロを取られることは不本意であった。静岡市民文化会館大ホールである。そこでソロを吹いてみたかった。
 曲自体はスローテンポであり、冒頭のサックス、クラリネットの木管の響きも良く、まとまりは良かった。 

 先の2曲は、ふれあいコンサートで演奏してあり、問題は無かったが、「呪われた海賊たち」は、初めての曲である。みんなが知っていて人気の曲ではあるが、この曲、テンポがやたらに難しい。このサンバとも違う8分の6拍子で、時折8分休符が紛れる独特なリズムが出来ないと、合奏は無理である。そして、山田中では経験のないわずか1ヶ月で調整するということとなる。飯山中との合奏練習はふれあいコンサートの時だけで、音合わせでしかなかった。実際の本番のリハーサルは、当日の指定された時間しかない。ここで一発合わせしか時間は無かった。

               *    *    *

 本番1週間前の土曜日。「呪われた海賊たち」の山田中吹部の初めて合奏練習となった。が、音にならない。バラバラである。そもそもこのリズムに追いつかない部員が多いのである。リズムが難しい代表はサンバである。それを日本人向けに優しくして且つ、サンバの雰囲気を残した代表曲が「風になりたい」である。吹奏楽の練習曲の一つである。この「呪われた海賊たち」もいろいろなスコアがあり、本格的なものから、アレンジしてリズムを取りやすくしたものもある。
 いろいろのアレンジのある中から、全体にスローなバラード調の選曲をしたのは、みんなが普通に耳にする「呪われた海賊たち」の重厚で壮大なリズムが取れないからであった。
 琴音はティンパニーで、彩乃はスネアで、テンポを刻みボリュームを付けているが、金管が追いつかない様である。琴音はティンパニーとマリンバが得意で、彩乃はスネアやドラムセットが得意である。このコンビ、息が合うのか自ら高め合って練習を重ねている。期待したいところである。
 明日香のクラリネットのソロから始まり一通り合奏した後、杏のトランペットのソロとなる。杏が自慢のバックの銀のトランペットを堂々と掲げ、「ぷすっ」立て直すも「ぷぷぷすっ」。2年の杏がここに来てまさかの「ぷすっ」「ぶおっ」状態である。まるで覚えはじめの1年生である。この曲はトランペット、ボーンがハモりながらリードして、中音域をクラリネットが豊かに膨らませる、壮大なスケールである。その重要な音が何度やっても「ぷすっ」。三田も、怒りきれない。「やる気があるのか!無かったら出ていてくれ!」「邪魔なんだよ!」「楽譜がないなら、おい、クラ、楽譜見せてやれ!」檄が飛ぶ。パーリーの杏である。なぜか全く音が出なくなってしまった。焦れば焦るほど、音ではなく吐く息そのものである。なぜだろう、今までどうやって吹いていたのだろう、全く頭の中が真っ白になっていた。
 真面目なクラの子が楽譜を持ってトランペットへ...うーん、言葉通りじゃないんだけど...杏は優子の教えの通り背筋を伸ばし楽譜を見ないで吹こうとしていた。それを「暗譜で吹けないならもっと練習してこい!」と言う意味で檄を飛ばしたつもりだったが、指導の言葉も難しく比喩しても通じないようである。
 後半にかけて、明日香のクラリネットのバラード風のソロが終わり、金管がそれを受けて荘厳な趣を加える最大の山場で、ペット、ボーン、ホルンが全く合わない。とくにペット。誰も音にならない。そう、パーリーの杏が出ないのである。

 でも他のパートも似たり寄ったりである。いつもの調子が出ない。心の中で「杏がずれてる」と思うも、自分もずれていることは気づかない。奈菜はちょうど真後ろから杏の音が聞こえる。その位置関係と、後ろから前に飛ぶ杏のペットの音と、前から後ろに飛ぶ方向性が全く逆の奈菜のホルンの音がずれていることは、単に杏がずれているからだと思い込んでいる。なぜなら自分の音はチューナーがちゃんと緑のLEDを光らせてくれているからである。多少指が追いつかないことも気がつかない。演奏が止まる。やり直しとなる。「杏、ちゃんとやってよ」と心の中で叫んでいた。

 ユーフォの美咲も音のずれ方は杏と似たようであった。この楽器もベルが上を向いていることと、管そのものの響きを体で感じてしまうのか、どうも自分で感じる音と、出ている音が誓うように感じるのである。そこに来て、スローテンポが逆に息が続かない。息量のコントロールが上手く出来ず音が途中で裏返る。ばたつく音を押さえあぐねていた。

 クラリネットも全然ボリュームが足りない。明日香も人ごとではなかった。パーリーとしてボリュームが足りないことは十分分かっていた。正直な話、1年の何人かはエアークラリネットで、まともに音が出ていない。そういう自分もリードとリガチャーの按配がよろしくなく、キィーと不快音を出すことが多い。ボーンは優子がリードすることで音らしい音になってはいるものの、譜面の速いテンポに右手がついて行かないようである。6本のボーン、1st.2nd.二つのメロディのはずが、6本の音になっている。ジャック・スパローが拳を振り上げ、ブラックパール号の帆が広がり、大海原の荒波の中を突き進むはずのこのシーンが、手こぎボートであわや沈没寸前。海から何本ものイカの足が出てきて....あっ、沈んだ....とても壮大なリズムとはいえなかった。
 
 三田も振り上げた拳を下げることも出来ずに、昼食休憩とした。
 昼食休憩中、保護者会会長との楽器輸送の打合せをしていた。そこに3階の教室から、きれいなトランペットのソロが聞こえてくる。紛れもない、杏が奏でるバックのトランペットの音である。太くて丸く響くいい音色である。ちゃんと吹けるのである。三田もそんなことは分かっていた。杏が極度の恥ずかしがり屋で、注目を浴びることに慣れていないこと。それを解消させないと今後が難しいこと。わざと追い込んでみているのである。が、そうも言っていられない。あと1週間である。平日は合奏練習が出来ないことを考えると、今日明日が最後の合奏である。

 杏は、優子からまっすぐな姿勢で吹くように言われていた。顎を引かずトランペットを水平に持ち、顔を上げてまっすぐ100m先に音を届けるように吹けと言われていた。そのため楽譜を見ていない。まくし立てられると頭の中の譜面の音符が消え去り、自分の音すら聞こえなくなってしまっていた。いや、聞こえないのではなく、すでに出ていなかった....。顧問の三田から「楽譜がないなら(見ていないなら)クラの楽譜でも見ろ!」と言われたが、譜面を見ろという事ではなく、暗譜したイメージを強く持ち、周りの音を探すなということである。杏の自立心に訴えているのであるが、杏以外のトランペットの子は本当にクラのパートから楽譜も見せてもらっている。そこはまだ子供である。

 杏はイメージを高く持ち、遠くに飛ばそうと意気込むのでどうしても音が高くなる。他のペットは自信なく下を向いているが、杏はなんとか前を見ようとする。結果、ひとり合わない音が響き渡る。そんな状態で本番の日を迎えるのであった。

 しかし、杏の問題は実は楽器にあった。杏はかっこいいおしゃれなトランペットを夢見ていた。楽器は両親が買ってくれたのだが、それは、ヴィンセント・バックのストラディバリウスと呼ばれる、10人に「トランペットどこの楽器が良い?」の問いに、7、8人はこの楽器を選ぶであろう。そのぐらい有名で誰もが憧れる物である。多くのプロの演奏家が使っている割に、40万円ぐらいで手に入る。木管と比べれば安い物である。しかし、そこが金管の楽器選びの難しいところである。ストラディバリウスは、銀鍍金で2本支柱という形式である。銀鍍金とは別に綺麗だから施しているのではなく、管体に比重の重い金属でコートすることで、不要な共振を押さえることが出きるのである。逆に言えば、管の中を抜ける空気の流れに抵抗が強く、息量を問われるのである。ある程度上達して初めて吹ける物である。だからといって、銀鍍金が最高に良い音というのではなく、そこは「好み」である。
 同様に、2本柱は見た目はしっかり作られているようでかっこよいが、支柱がないものは、管が共振しやすく、支柱があれば共振しにくい。同様な効果があり、柱のないタイプは吹きやすく、また自在に音を変化させやすいが、2本支柱は音の響きが重厚となり壮大な演奏が可能である代わりに、抵抗が大きく吹く息量が相当必要となる。
 つまり、この楽器、扱うにはそれなりの技術が必要であり、高くてプロの使う楽器が誰が吹いても最高の楽器では無く、初心者が吹くと抵抗が強いので音になりにくいという事である。さて、楽器を買うときにそこまで誰か教えていただろうか。下手な人にはそれなりの楽器。というと語弊があるが、技術の向上に伴い、使える楽器がかわっていくのである。どうせ、将来この楽器が良いのなら、買い直すと無駄になるからと言うことで買ったとすれば、もったいない話である。

 美奈は、合奏練習の時、三田が「オーボエの平べったい音は、どんなにチューバやボーンが騒いでいても全体に聞き分けられるからな。間違えたらただじゃおかないぞ!」と怒鳴られた。音階としては、ピッコロ、フルート、エスクラ、ソプラノサックスあたりと被るのであるが、2枚リードの独特の平べったい音色は確かに特徴がある。さらに、低い音は方向性が薄くなり全体が響く感じとなるが、高音域は指向性が高まり位置感覚ははっきりと出てくる。音量は確かに小さいのだが、確実に聞こえているのである。また、オーボエはリードの根元がわずか直径4mmである事もあり、微妙な音の調節がしにくい楽器でもある。そのため、演奏会の最初はオーボエが音を出し、他の楽器がこの音に合わせるのである。湿度や気温で音に変化が生じるが、それを調整しきれないのである。だから、「今日の基音B♭は、この音で」と、その時のオーボエから出る音を、今日の基音「シ♭」としているのである。これはクラシックのオーケストラも同じである。クラッシックの場合は、Aの音「ラ」である。
 だれも同じ音がいないので、いつも一人と思っていたが、顧問の三田がちゃんと聞いていてくれる。これは美奈にとって、嬉しいことである。だから絶対に間違えない。そのために練習するんだと意識を高めるのであった。

 顧問の三田はなぜ演奏会を何度もやろうと考えているか。それは、1にも2にも、度胸を付けるためである。吹奏楽は腹一杯に吸い込んだ空気を一気にコントロールして吹き込み音とする。ここに何か引っかかりがあれば、途端に音ではなくなる。理屈では分かる。でも、みんなが注目しているところで思い切りの音など吹けない。ましてや男勝りの優子ならいざ知らず、そこは中2女子である。本番の夏コンは、大ホールである。審査員が真剣に聴き、ライバルや同僚が聞き入っている。全ての目線と耳がこちらを向いているこの空気に打ち勝つには、慣れるしかない。

 上手い演奏かどうかは今の段階でさほど重要ではない。プレッシャーに打ち勝ち、むしろプレッシャーを楽しむぐらいにならないと、音が出ないのである。特に金管楽器は唇と吹く息量で音を変える楽器であるので、確実なロングトーンとスケールが出きるようになるには、半年以上かかる。さらにみんなをリードして、ソロをこなすには、もう1年の経験が必要であろう。1年生と2年生の10月ではこのあたりが限界か。そう思える合奏練習であった。

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 中文連の本番当日、静岡市民文化会館大ホール横に併設されている中ホールが、リハーサル会場として提供され、午前の遅い時間に時間指定され、ふれあいコンサート以来の飯山中との合同合奏練習となる。ここで、パーカスは山田中がメインとなり、琴音と彩乃がリズムを担当することとなる。このテンポ、飯山中には難しかったようだ。トランペットのソロは杏となり、クラリネットソロは飯山中担当となった。トランペットは飯山中の方が音が出ていたようだ。逆に言えば、クラリネットは、山田中の明日香の方が安定していた。お互いの顧問の打合せで、その逆を取ることとなる。明日香はおもしろくない。が、そこはサポートに徹すること自体、不愉快ではなかった。問題は杏である。すでに、がちがちとなっていた。

 そして当日の3曲目が始まる。壮大なスケールでの演奏が始まり、盛り上がってくる。大合奏の醍醐味である。映画のワンシーンが脳裏に浮かび、中学生の音とは言え、体がリズムを刻み演奏にのめり込んでいく。そして最高潮に達したとき、トランペットの杏のソロとなる。バラード調の「聴かせる」ソロパートである。
 杏のソロは静岡市民文化会館大ホールに響き渡った。「ぷすっ」と。
 でも、ひるまなかった。最後まで音を立て直した。息むので高い音が出る。でも吹いた。
 まだ気が抜けない。後半のバラードである。クラリネットソロの後の金管をリードしなければならない。ペットを高く持ち、譜面を見ずに大ホールの2階席に向けて音を出した。練習と同じ高い音だった。しかし、その音は平べったい角の強い音ではなく、どこかバックの甘く丸い音のような感じがした。自分の音が指揮者を飛び越えてホールに飛んでいくのが分かる。思い切り音色を外しているが、なぜか気分が良かった。「しまった」と、顔を赤くしたのは冒頭のソロであったが、後半は開き直ったのか、真っ暗なホール2階席に吸い込まれていく自分の音をみていたのである。

 表彰式の後はスタッフや観客全員での合唱となる。その伴奏は、山田中と飯山中の2年生での合奏であった。とはいえ、金管はペットとボーンのみで、ホルンやETC(ユーフォ、チューバ、コンバス)と、木低(アルトクラ、バスクラ、ファゴット)は、合唱チームとなった。フルートとオーボエであるが、ここに来て音が合わないことが明らかとなる。今まで大きな音に隠れて気づかれなかったが、即席合唱団で歌も音がずれていることもあるが、バラバラであった。ただ一つ、マリンバ、ビブラフォンの響きが心地よかった。琴音である。

 さて、95名の大合奏も、バタバタと終わり、いろいろな課題が見えてきた。ここでのいろいろな失敗は、貴重な経験となる。今の段階は、いくら失敗しても良い。むしろ失敗した方が良い。大ホールでみんなが注目して、スポットを浴びて一瞬、シンと静まりかえった中、「プスッ」。そうできない体験である。そして、もう、何も怖くなくなるのである。まさに「度胸」が確実についたであろう。

 演奏が終わりロビー裏に出てくると、保護者会の会長、美奈の父が出迎えていた。「やっちゃいました」杏の言葉であった。でも、杏の足取りはしっかりしていた。美奈の父は、大きくうなずいてにっこり「良かったよ!」と声を返したのであった。

 そして、次の練習が始まるのであった。

 めざせ!東海大会♪

※ この物語は、とある、地方中学校を舞台に繰り広げる、無謀かつ純粋な挑戦の記録です。
※ ストーリー全体はフィクションでありますが、一つ一つのエピソードは実話を基に、アレンジをして書かれています。
※ 登場する実在の学校、団体、個人等と、全く関係・関連はありません。
※ この作品「めざせ!東海大会♪~ある吹奏楽部の挑戦~」は、著作物であり、版権は著者に依存します。無断転載、転用はお断りします。
※ 原作者(著者):ホルン太郎 なお、この作品は、取材で集めた実話をヒントに新たに書きおろしたフィクションです。
※ この作品は、一般市民団体「まちなか演奏会実行委員会」によって公開されています。

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