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第08話

繁華街でのミニコンサート

めざせ!大集合14人衆900-min.png

 かつて黄金期とまで言われた、地方中学校。担任が変わったこともあり、A編成すら維持すら心配されるようになってしまった。「これではだめだ!私が3年で東海大会に連れていく!」新たな吹部顧問を迎えて、新生山田中学校は、東海大会に向けて、新たな挑戦を始めるのであった.....。

めざせ!東海大会♪ シーズン2

 2年生を中心とした1年生全員を含む新しいメンバー、このメンバーで来年の夏コンを競う。そして、今年も果たせなかった「東海大会」へ行くために、今何をするべきか。顧問も、部員も、そして保護者たちも共通の問題に取り組んでいた。
 覚え始めの中学生のレベルであれば、浜松だって抜けるかもしれない。
 では、浜松とどこが違うのか。

 「浜松では、吹奏楽部の顧問を対象に吹奏楽人事が行われている」などと噂があるほど、制度からあらゆる実態が静岡と違うようだ。また、全国高校選抜大会のように、全国からトップクラスの高校が毎年浜松に集い、中学校を含め合同練習などの交流を深めている。5月を過ぎると、ほぼ毎週のように土日に浜松駅前で吹奏楽部の演奏会が特設ステージで開かれている。おそらく、浜松エリア全域の中高生の吹奏楽部が1度は演奏しているであろう。それ以外でも街中で、ジャズも含めてミニ演奏会が頻繁に開かれている。
 楽器の街だから官民挙げて盛り上げている、とは言うものの、単にそれだけではないであろう。楽器の街とは言うものの、ヤマハ、カワイ以外のメーカーの楽器も広く使われている。楽器の売り上げだけでは、これだけの催し物の経費は払いきれないであろう。市民全体が、街を活性化しようと盛り上げている姿勢が違う事に気づくのであった。

 対する静岡では、街角演奏会はほとんど行われていない。4月の静岡祭り、11月の大道芸ワールドカップの時に、イベントとしてのミニ演奏会があるだけである。静岡市でも清水はまた違う。清水1番のドリームプラザという海をテーマにしたショッピングモールでも、地元中高生の吹奏楽の演奏が毎月のように行われている。近くのマリナートというコンサートホールでも、演奏会が目白押しである。
 無いのは、静岡だけである。

 とにかく、屋外で演奏会がしたい。そんな願望は、みんなにあるようだった。
 保護者会の会長になった、美奈の父は、街角演奏会をやりたくて仕方が無かった。これには顧問の三田も同調した。顧問の三田によれば、吹奏楽は、体いっぱい吸い込んだ空気を吹いて、音にする。この時、こわごわ息を吹いていれば「すー、ふー、ぷす」と、全く「音」にならない。勢いよく「ふぅーっ!」と吹きこまなければ、「ぶぉーーっ」という音が出てこない。その為には、度胸一発「えいっ」、という気持ちが大切である。とにかく、「音」を出してから初めて次の課題に繋がる。
 でも、覚え始めのころは「音」が出ないこともあり、こわごわ息を吹く。「あっ、違ったと」思うと、萎縮して息が止まる。これを突破するには、みんなの注目を浴びての演奏しかないのである。
 そこで考え出されたのが、アンサンブルコンテスト(アンコン)である。アンコンに多くの中学校吹奏楽部が参加するのには、そういった意味合いが強い。
 アンサンブルは、個々の吹く技量の向上もさることながら、人の音を聴いて調整する技術を身に付けられる。でも、それ以上に人前で演奏する。この度胸を付けることが一番の狙いである、と三田は言う。
 そして、昨年その結果が確認できたので、今年はその前に部内ソロコンテストを実施したのである。これは完全な個々の技術をみんなに評価してもらう、ズバリの企画であった。もちろん、ソロコンの練習開始から、コンテストは1カ月。この1カ月での勝負ですべてが決まるわけではない。ここで見ているのは、この1カ月の成長ぶりである。みんな楽しみながら、それでも、誰の方が上手いとか、私のここが下手などと、開かれた評価ができる点が部員全員の支持を得たようだった。
 保護者会の会長は、この子たち全員がその練習の成果を発表できる場を提供したいと考えた。

               *    *    *

 始めは、5月ごろに静岡駅前か、青葉シンボルロードと呼ばれる、静岡中心の繁華街での屋外演奏会を思い付いた。しかし、ここにはいろいろとハードルが高いことが分かった。なぜ静岡で屋外演奏会が無いのか。そのことが解ることとなる。
 なんと数年前までは、それでも年に1、2回、吹奏楽部の屋外演奏会があったようだ。しかし、今は全面中止となっている。その理由がこれだ。
 「うるさい」

 毎日、バンバン演奏するわけではなく、年数回で「うるさい、うちの店の雰囲気に合わない」という理由で、演奏会ができなくなってしまったようだ。

 なんという事だ。

 そこにはいろいろと積もった理由もあるようだ。一つは行政の対応。行政側の「音楽」に対する考え方は一つ。市の上層部の一言は「音楽は金にならないからねぇ」
 ここに、静岡が浜松を抜けない真の理由がある。そう感じたのである。
 とはいえ、ここで対峙しても先に進まない。できることをできる形で進めることが今必要なことである。そこで、「うるさい」のであれば、「アンサンブル」でいこう。アンサンブルならば、この「アンコン」に合わせて実施すれば、新たに譜面を覚える必要もなく、新しいチームを一つにまとめ上げているための重要なイベントになりうると、保護者会の会長として考え付いたのであった。

 屋外演奏というのは、重要である。というのは、文化会館などのホールは、中心部から少し離れている。そこまでお客を歩いて行かせることが少し重い。また、そこまで興味があっていく人は、音楽に理解のある人だが、そうではなく音楽に理解が無い、というか興味を感じていない、それでも音楽が嫌いじゃない人はもっといるはずである。この人たちをターゲットに、嫌やがおうでも、歩いていれば音楽が耳に届く環境作りが大切と考えた。もちろん、「うるさい」と感じる人もいるであろう。逆に「あら良い雰囲気だね」と感じる人もいるであろう。完成された「音」はまだしも、覚え始めの中学生の「音」を心地よいと思ってくれる人は少ないであろう。でも、その成長ぶりを応援したくなる人もいるであろう。とにかく、音を出して聴かせて、少しでも理解者を増やすこと。環境作りではそこが重要である。
 どこでやろうか。そこが問題であった。

 アンコンにあわせてとなると、もう2カ月しかない。そうそうゆっくりと交渉していられない。そこで思いついたのが、新静岡ショッピングモールでの演奏会であった。幸い、保護者会会長自信の仕事の関連であったため、話はスムーズに進んだ。ただイベントスペースには、クリスマスまで巨大クリスマスツリーが飾られている。この周りでやるか、ツリーが撤去されたクリスマス以降にやるか。
 クリスマス以前は、学校に授業がある。土曜日なら部活として活動しやすいが、クリスマスの前々週は、アンコンの本番である。翌週はクリスマス本番で相当な人出が予想され、ツリーの周りでのミニ演奏会ができない。という事で、クリスマス終了後、年末商戦の前、12月27日という日程が先に決定した。
 さて、次なる課題が出てきた。保護者会の会長自身は吹奏楽の経験が無い。その為か重要なことを思いつかなかった。それが「音出し」ができる控室の準備であった。土日であれば、近隣のオフィスでもある程度の「音出し」が良いという理解者もいたのだが、平日である。近くに民間の小ホールがあるのだが、その楽屋はホールの貸切が条件である。いろいろ電話で当たると、一つ引っかかったのが、県教育会館という事務所ビルである。学校関連の会議室を併せ持つ施設で、新静岡ショッピングモールの目の前にある。ここの地下会議室が4部屋あり、そこを全部押さえてくれれば、音出しが可能と回答があった。偶然にもその日時4部屋とも空いていたので、すぐに押さえることとなった。
 しかし、ここが最大の問題となる。費用が発生するのである。この金額をおいそれと吹奏楽部費で処理しきれない。スポンサーを探す必要が出てきたのである。もはや、吹奏楽部保護者会という立場だけでは成り立たなくなってしまった。
 保護者会の会長が考えたのは、それであれば費用負担を減らすという意味で何校かに声をかけ、複数校で参加し金額を割れば、1校当たりの費用が減額できる、という妙案であった。早速、仕事上で交流のあったいくつかの高校吹奏楽部に声をかけることとなった。

 さっそく、静岡総合高校が参加を表明してくれた。
 複数校が参加するという事で、この企画を、吹奏楽部保護者会会長という職から、本人の会社の事業とし、会社の地域貢献活動の一環としての事業と認定させる事ができた。山田中学校吹奏楽部保護者会会長だけでは、公私混同でしかなかった企画であるが、これで、大手を振って「仕事」として関われることとなった。
 それでも2校では何となくさみしい。声をかけたところは全て参加しないという回答であった。そんなおり、学内アンコンオーディションを、大岩中と合同でやることとなった。大岩中といえば吹奏楽の名門で、今年の夏コンは山田中の次点であり、静岡県中部地区では、1位2位の関係である。ここが一緒にやってもらえれば、この企画、大成功である。顧問の三田もそのことを理解し、ぎりぎりまで説得をしてみた。しかし冬休み期間中であるし、急に出た話で既に年間スケジュールを組んでいることもあり、参加できないと回答された。しかし、これはやむをえまい。みんなが同じ考えではないし、何分、今回の話はあまりに突拍子もなくスタートしている。そもそもが準備不足という事をわかっての企画であるからである。あまり長く検討していても、ますます準備不足となるため、今回は山田中と静岡総合高校の2校での開催とし、企画を準備段階へと駒を進めるのであった。

 さて、この話が正式に顧問から部員に話が出ると、部員からは歓声が上がったのである。というのは、中高生にとって新静岡ショッピングモールは、あこがれの場所。子供向けというより、若い働く女性をイメージするような、ちょっと高級なショッピングモールである。そこで演奏をするという事が何を意味するのか。1年生でも、アンコンのメンバーから外れたチームも、アンコンの結果が何であれ、部員みんなが同じ舞台で、練習の成果を発表できる。しかも、それは、静岡一の繁華街のあこがれのショッピングモールの前で。これは叫ばずには居られなかった。

 ここには、吹奏楽部保護者会会長としてではなく、美奈の父親としての思いもあった。それは思い返すこと半年前。悔しくもメンバー落ちをした娘を思えばこそ、今回、アンコンのメンバーになれなかった、他の部員全員の思いをメンバーと共に一つにまとめたかったのである。

 彼が、顧問と打ち合わせに土曜日に学校に行くと、アンコン部内オーディションに落ちた、パーカッションが、何度も練習をしているのが聞こえた。琴音のマリンバである。非常に上手かったが、奇しくも次点で選ばれなかった。この悔しさが、音に出ていた。非常に早く、大きく、小さく、2階から聞こえてくるマリンバの音は、悔しさを唄うように校庭に響いていた。何度も何度も。ストイックなまでに詰めていく。他のパートの音も時折聞こえるが、ここまで繰り返し練習している姿勢は、他のパートには感じられなかった。琴音の心の叫びが音となって校庭に響き渡っていた。いつもはおどけて笑われているが、心の中はここまでストイックに自分を責めていく。しかしその音は、厳しく鋭い音ではなく、不思議と丸く優しくでも勢いのある音であった。

 昨年の美奈は、アンコンオーディションは、もちろんのように選ばれなかった。アンコンの曲は、2月の「コンサートシリーズ・冬」の第1部で演奏する。それは分かってたが、2カ月以上先の話である。顧問はメンバーに付きっきりとなるので、メンバー以外の部員は、個人練習しかない。コンサートシリーズの曲としても、メンバーが抜ければ、パー練すらろくにできない。個人練でしかない。練習に力が入らないのは、仕方ない状況であった。
 しかし今年の1年は違う。発表する場があるからだ。もちろん、指導者がいない環境での練習には限界がある。でも、アンコンオーディションでの先輩たちが流した涙、何も感じなかったわけではない。でも、どう対応したら良いかが解らないだけである。
 そこに譜面があり、楽器がある。そして発表する場がある。そうなれば、やるべきことはわかるのであった。先の見えない練習ではなく、先が見える練習。この差は、技術レベルの向上という意味ではなく、心の成長という面で大きく影響していくであろう。

 美奈も本気モードに入っていた。アンコンメンバーになった時点で、先生を付けることとした。そして、1カ月、突貫工事で練習をした。この頃になると、既にどこが悪いかは自覚している。でも、それをどうやれば解決されるかが解らなかった。だから、オーボエの先生に教わりたかったのである。そして、残念ながらアンコン地区大会で敗退する。
 それはそれで良い。自分のレベルがはっきりとわかった。アンコン地区大会以降、目標が見えた。やるべき事も見えてきた。ここで、しっかりと、オーボエ専門の先生に従おう。いままで数か月に1回廻ってくる先生の指導では、なかなか意思が通じ合わない。でもこの先生とならば、意思が解り合える。初めて、自分の本心を認めてもらえた感じで嬉しかった。その中で、市内に何人か同じ思いでオーボエをやっている仲間がいることも分かった。「敵」ではなく、ライバル。そして、この先生についていけば、必ず自分よりうまい人に追い付ける。そう思えるのであった。
 楽器の持ち方から注意される。譜面の見方を注意される。
 あれ、どこかで同じ思いを。
 そう、1年前、プロのオーボエ奏者に見てもらった時のことだ。あの時は、まだ何が正しくて、よいのかもわからない時であった。しかし、自分の心の中を見透かされ土足で踏まれたような感覚に驚き、「先生を付ける」ことから逃げいていたのである。しかし今は違う。いろいろ分かってきた今の自分にとって、持ち方一つの指導は、大変うれしく思えて仕方が無い。初めて分かってもらえたようであった。いつも一人で練習をしてきた。パーリーになったとはいえ、フルートではない。一人で練習するしかない。気がつけば、後輩の方が高音域で良い音を出している。低音が得意なのは良いが、高音域は苦手である。引退した3年の先輩も高音域が得意であった。このままでは、抜かれるかもしれない。でも1年生からは優しい先輩と思われたい。何でも教えてあげたい。でも、そんな余裕が無くなるかもしれない。そんな焦りもあった。
 しかし、そんな思いをしているのは自分一人じゃなく、この先生の生徒に中2の女の子が3人もいた。そして学校こそ違うが、同じ思いでいたことがうれしかった。そして、それを理解して、優しくも鋭く指導してくれる先生の存在が美奈にとって、大きなものとなっていくのであった。
 ミニコンサートまでは、とにかく今できる練習を重ねた。

               *    *    *

 演奏会当日、この冬一番の冷え込みであった。楽器は温度変化を嫌う。特に木管は、グラナディラという木の外気温に接する表面と、暖かい息が通る内面(管壁)に温度差が生じ、木質に悪い影響を与える。ひび割れとかの原因を作ることもある。それ以上に、音がゆがむ。
 美奈は、マフラーを持参したが、自分の為ではなく、オーボエに巻きつけて移動した。木管は、気温差、湿度、そして、直射日光を嫌う。管理が大変である。

街角コンサート350-min

 演奏会は、あっけなくスタートした。1年生のチームから始まった。あれ、アンコン部内オーディションの時より音が良くない?それより、生き生きとした表情であった。もちろん、1年生のレベルである。特に金管はどうしても音が乱れる。これも仕方が無い。まだ中1の女子となれば、体は小学生の様なもの。華奢な体で強く吹いても、まっすぐ安定した息量を確保すること自体が難しいことである。それでもなんとか、曲に仕上げる。その思いが、良い音を作る心構えである。ステージと違って、お客さんが目の前である。ニヤニヤ笑う顔が見えるし、小声でつぶやく声も聞こえる。恥ずかしい。でも演奏を続けるしかない。この瞬間に「演奏する」という心が形成されていくのである。また、当日は小雪が舞うほどの今シーズン位置の寒さであった。幸い日が当たるので、太陽の下では暖かいのであるが、楽器には寒すぎたのである。木管は制服の中に包むようにして持てばなんとかなるが、金管は裸で持つしかない。寒さ対策をどのようにすれば良いか、特に1年生は分からない。そのまま持ってそのまま吹く。なるほど、気持ち悪い音である。わずか3分程度の曲である。十分に暖まる前に曲は終わってしまう。演奏した音が、息量が悪くて音が外れているのか、楽器の温度変化による物なのかは定かではないが、正直おせじにも素晴らしい演奏といえるものではなかった。

 いよいよ美奈と美由、彩、奈菜の番となる。タイムスケジュールが、早めに吹したので、顧問から、いつも練習しかしなかった、第5楽章をやるように指示が入る。木管5重奏の選択した曲は、「17世紀の古いハンガリー舞曲」という、5部構成の曲である。アンコン地区大会は2分30秒で勝負なので、第1楽章と第3楽章で演奏した。第5楽章は、曲のテンポが良く、県大会では3分の演奏時間で、第1楽章と第5楽章で演奏する予定であった。それが地区大会どまりとなり、行き場のない第5楽章。とは言え、地区大会突破が当面の目標であったため、第5楽章は練習不足であった。顧問の指示とは言え、いきなりの変更で戸惑うも、もう演奏がスタートするのであった。美奈と美由は気が合うしオーボエとファゴットで音も合う。この二人がリードして、奈菜のホルンが低音を響かせる。美奈は木五のメンバーが最高に好きだった。美奈のオーボエのソロをフルートの彩が追う。オーボエとフルートの掛け合いに、低音がリズムを刻む。おもわずくるっと回って踊りたくなる雰囲気である。演奏しながら、また、曲と曲の繋ぐ間、みんなで目線を合わせた。もちろん目は笑っている。もう、何度練習しただろうか。楽譜は見なくても音を合わせられる。時折ちょっと外したり、ビブラートがかかって「おぉ」と思ったり。メンバーみんなが演奏をを楽しんでいた。

 アンコン地区大会よりも、完成されていた。あの時この演奏だったら上位2校を抜けたと感じた。その場に、上位2校の第2位の生徒達が聴きに来ていた。自分達の次点の演奏が気になったのであろう、コンテストの時は、山田中の方が先に演奏であった事もあり、彼女らにとって初めて聴く山田中サウンドであった。
 アンサンブルは、小編成の合奏である。ソロではない。ソロの技術が高くても、一人で勝手に演奏していれば減点である。ずば抜けて上手い奏者がいるとそんなチームもいくつもあった。全員の息を合わせるとは、具体的に言えば、呼吸のタイミング、みんなが同じタイミングで呼吸する場合と、音を切らさないようにずらして呼吸する場合とがある。音の大きさ、もちろん音の高低(チューニング)の音合わせも、一人勝手に唄い出すと、合奏ではない暴走である。微妙なテンポ、音の向き。一人で勝手に楽器をぐるぐる回しても、音がまとまらない。みんなが同じイメージで、その場で音を作っていかないと、「合奏」ではなく「合掌」となってしまう。

フルート四重奏600-min

 屋外演奏なので、細かな部分は上手くノイズに消され、微妙な音のずれも目立たない。そういったこともある。しかし、じっくり聞けば、ちゃんと聞こえてくる。その中で、確実にアンコンの時よりも上手くなっている。おそらく技術の向上があったのではなく、呼吸があったのだと思った。
 そのあとの、山田中の取りを演奏するのが、フルート4重奏。今回のアンコン地区大会では、誰ひとり、フルートからは県大会進出ならずである。多少その評価基準に疑問を感じるも、その悔しさから、この4人のメンバーの熱い思いが伝わる演奏であった。リーダーの今日子は、確かに上手い。確実な音と、フィンガリング。そして、まさに踊って唄える。が、それ故、他のメンバーがそれについていけない。一人暴走する傾向があった。立ち位置が悪かったかもしれない。観客から見て一番左がリーダーとなるが、ここで楽器を回し始めると、チーム全体が視野に入らない。そんなこともあったかもしれない。またチームからもリーダーが見えないのかもしれない。今回は、会場の設定の仕方もあったが、通常の弧を描く並びを、三角形を描くように並び、その微妙な配列で各人からリーダーが見える位置になったことも影響するのだろうか。リーダーが踊り唄い出すと共に、みんなが同じように踊り唄いだしたのである。リーダーも暴走することなく、その音を聴きながら演奏している。ここも、一人ひとりが技術的に向上したというよりも、チームワークが取れてきたのが印象的であった。
 これが、小編成アンサンブルの練習としての良い事なんだと、改めて感じることができた。

 そしてそれは聴く側だけでなく、演奏する側が一番感じたようであった。一人ひとりができうるすべてを出し切ったうえで、足りなかった部分をみんなで補い整える。
 かつては誰がミスした、どこの音が取れていない、という不満ばかりであった。でも今は違う。もちろん、そういった根本的な練習不足を感じることもあるが、補える範囲は補っていく。誰かが突出することも暴走することもなく、極端に音を崩してしまう事もなく「演奏」できてきたのである。

 かつて、顧問の三田が「中学生は化けるんだ。どう化かすかは我々大人の役目」と言った。
 まさに、この子たちは、「今」、化けたのである。
 そして、演奏会はあっという間に終わったのである。
 1年生から2年生まで、みんな達成感で満足そうな笑顔であった。
 また、課題も見えた。誰から命令されたり、指摘されたのではなく、自分の目、耳で、それを感じとれた。そうしていくべきかが、自分で分かるようであった。だから、この子たちの目は夕日の木漏れ日がビル群の窓に反射してキラキラしている以上に「輝いていた」!

 めざせ!東海大会♪

※ この物語は、とある、地方中学校を舞台に繰り広げる、無謀かつ純粋な挑戦の記録です。
※ ストーリー全体はフィクションでありますが、一つ一つのエピソードは実話を基に、アレンジをして書かれています。
※ 登場する実在の学校、団体、個人等と、全く関係・関連はありません。
※ この作品「めざせ!東海大会♪~ある吹奏楽部の挑戦~」は、著作物であり、版権は著者に依存します。無断転載、転用はお断りします。
※ 原作者(著者):ホルン太郎 なお、この作品は、取材で集めた実話をヒントに新たに書きおろしたフィクションです。
※ この作品は、一般市民団体「まちなか演奏会実行委員会」によって公開されています。

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